ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。

『ワールドトリガー』という不都合な引金が描くもの

ワールドトリガー 10 (ジャンプコミックスDIGITAL) 作者:葦原大介 集英社 Amazon 『ワールドトリガー』という漫画を1巻から夢中で読み続けているのだけれど、ストーリーの展開についてひとつだけ疑問があった。6巻で幕を開ける「大規模侵攻」という大イベン…

『逆流主婦ワイフ』はそこで淀んでいるわけにはいかない

逆流主婦ワイフ 1 (ビームコミックス) 作者:イシデ電 KADOKAWA Amazon 僕は家事が好きだ。料理のレパートリーが豊富というわけでもないし、家のなかが常にピカピカかといえばそうでもないから、好きというと語弊があるかもしれないが、炊事洗濯掃除など家事…

『橙は、半透明に二度寝する』あと5分だけ

橙は、半透明に二度寝する(1) (週刊少年マガジンコミックス) 作者:阿部洋一 講談社 Amazon 少女たちは、少しささくれた線で描かれる。明暗のきわ立つその絵は、一見して版画のような堅い印象を受ける。しかし同時に、どこかやわらかな感触もともなうふし…

『幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい』のはなぜなのか

幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい 作者:黒谷 知也 電書バト Amazon 結婚式の前々日に、彼女は自ら命を断った――。その理由を探しもとめる婚約者を描いた表題作「幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい」ほか、12の短編が収録された一冊。ほとんど用…

『運命の女の子』の手をとって

運命の女の子 (アフタヌーンコミックス) 作者:ヤマシタトモコ 講談社 Amazon 赤いぼうしと青いオーバーオールで身を飾る髭の男をあやつりながら、ときおり現れる星を手に入れ、なにものをも寄せつけないキラキラ瞬く体となって、けれど刹那で終わってしまう…

『第七女子会彷徨』の中の「徨彷会子女七第」

第七女子会彷徨(7) (RYU COMICS) 作者:つばな 徳間書店(リュウ・コミックス) Amazon 女子高生の金やんと高木さんが過ごす、すこしふしぎな日常が一話完結の形式で綴られてきた『第七女子会彷徨』。その7巻に、「幾重不明回廊」という初の長編が収録された…

『惡の華』のおしまいによせて

惡の華(11) (週刊少年マガジンコミックス) 作者:押見修造 講談社 Amazon 押見修造の漫画作品である『惡の華』が、この十一巻をもって完結した。最初の単行本から一貫して「この漫画を、今、思春期に苛まれているすべての少年少女、かつて思春期に苛まれ…

『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』けれど

夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない (モーニングコミックス) 作者:宮崎夏次系 講談社 Amazon ある雨の日に、かわいい系のおじさんであるところの僕が、ダンボール箱に入れられて、道端に捨てられていたとしよう。通りかかったあなたは、僕をひと目…

『ちーちゃんはちょっと足りない』で溢れだしたもの

ちーちゃんはちょっと足りない (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ もっと!) 作者:阿部共実 秋田書店 Amazon その友人の旭の言を借りれば、「言葉や考えが足りない」ちーちゃんこと南山千恵、中学2年生。社会科のテストで23点をたたき出して歓喜の…

『ノストラダムス・ラブ』イズ・オーヴァー

ノストラダムス・ラブ (IKKI COMIX) 作者:冬川智子 小学館 Amazon 1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってきて、地球は滅亡する――。 幼少時からノストラダムスの大予言にふれて育ち、「あたしが19歳になったら、せかいがおわる。しぬ。」と思い込んでいる村…

『誰も懲りない』と月見バーガーについての話

誰も懲りない 作者:中村珍 太田出版 Amazon たとえば「月見バーガーの季節」のように、日々を生活していくなかで、その到来を待ち望んでいるものがいくつかあります。「中村珍のストーリー漫画」も、そのうちのひとつでありまして。というわけで、先ごろ単行…

『千年万年りんごの子』という神話に結ばれた約束と果実

千年万年りんごの子(3) (ITANコミックス) 作者:田中相 講談社 Amazon 生まれてまもなく寺の縁側に捨てられたという過去をもつ雪之丞は、大学を出てすぐに、雪国のりんご農家に婿入りする。慣れない農作業や、田舎特有の他人との距離の近さに戸惑いな…

『人生は二日だけ』だとしても

人生は二日だけ (RYU COMICS) 作者:堤谷菜央 徳間書店(リュウ・コミックス) Amazon よくある自問。「私はなぜ生まれてきたのか」。 思うところはあるのだけれど、ときによって違ったり、ときには複数だったり、これだという答えをまだ見つけられずにいる。…

『さんかく窓の外側は夜』もふけて

さんかく窓の外側は夜 1 (クロフネコミックス) 作者:ヤマシタトモコ リブレ Amazon 「見ざる聞かざる言わざる」という言葉がある。「自分を惑わすようなもの、あるいは他人の欠点などは、見ない聞かない言わないのが賢明である」という意味で使われるのが一…

『バベルの図書館』に記されていない言葉を探せ

バベルの図書館 作者:つばな 太田出版 Amazon 年若いころ、多分にもれず「ここではないどこか」に焦がれて、ひとつ気づいたことがある。「ここ」を見る自身の瞳に反射した鏡像が、「どこか」へ抜け出すための扉なのだ。 しかし、それを自分で見ることはでき…

『町でうわさの天狗の子』を「自分だけは助けてやれる」理由とは

町でうわさの天狗の子(12) (フラワーコミックスα) 作者:岩本ナオ 小学館 Amazon いつもと同じ平素な時間のことを、日常と呼ぶ。その始まりは、とても小さな範囲でしかない。一歩踏み出せば、そこはもう非日常だ。 たとえば母親とふたりでいる空間のよう…

『ぼくらのゆくえは』という関係性

ぼくらのゆくえは (マーガレットコミックスDIGITAL) 作者:渡辺カナ 集英社 Amazon 29歳の朝海雪夫は漫画家だが、初の連載作品が打ち切られて以来、ネームを通すことができず、自分がなにを描きたかったのかも見失い、この2年間はペンも持たずにコンビニのア…

『林檎の木を植える』のは明日も今日であるように

林檎の木を植える (マーガレットコミックス) 作者: 志村志保子 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2013/09/25 メディア: コミック この商品を含むブログ (3件) を見る 何かを変化させたことに対する賞賛の声は、しばしば耳にする。何かを変えるというのは相当…

『羣青』のメガネさんが風邪を引き続けた理由

羣青 下 (IKKI COMIX) 作者:中村珍 小学館 Amazon 一年と少し前、『羣青』という漫画について、僕は感想文を書きました。読み終えた勢いそのままに(けれど最終巻が発売されて間もない時期だったためネタバレを避けつつ)書いたので、内容にはほとんどふれず…

『アリスと蔵六』について思っていること

アリスと蔵六(1) (RYU COMICS) 作者:今井哲也 徳間書店(リュウ・コミックス) Amazon 自分の想像したものをなんでもひとつだけ現実にしてしまうことができる、”トランプ”という特殊な能力を持った特異能力者たち。”アリスの夢”と呼ばれる彼らを管理する研究…

『放浪息子』はどこまでも

放浪息子15 (ビームコミックス) 作者:志村 貴子 KADOKAWA Amazon 今からちょうど10年前に、『放浪息子』の第1巻が発売された。それから今日まで、二鳥修一を見続けた。巻を重ねるにつれ、彼の身体的な成長にともなう骨格や肉付きの変化が、迷いのない(よう…

『宝石の国』に生きる彼らの価値は

宝石の国(1) (アフタヌーンコミックス) 作者:市川春子 講談社 Amazon 6度訪れた流星により、6度欠け6個の月を産み痩せ衰えた星。その海のなかで、長い時をかけ結実した宝石生命体28人。 彼らを装飾品とするために幾度となく飛来する月人(つきじん)との…

『ひばりの朝』を迎えて

ひばりの朝 (1) (FEEL COMICS)作者:ヤマシタトモコ祥伝社Amazonすぐに忘れてしまうのです。この作品のタイトルが、『ひばりの朝』だということを。すぐに見失ってしまうのです。この作品は、朝を待つひばりの話だということを。

『私という猫 ~呼び声~』と私について

私という猫 ~呼び声~ (バーズコミックス スペシャル)作者:イシデ電幻冬舎コミックスAmazon 知らなかっただろ どんなやつらが どんな場所で どんなふうに生きているか 自分がどんな世界にいるのか知りもしないで どうやってひとりで生きていくんだよ ひとり…

『人魚のうたがきこえる』と僕の間に残されたもの

人魚のうたがきこえる (こどもプレス)作者:五十嵐大介イースト・プレスAmazonまわりをサンゴに守られたラグーンのなかで暮らす人魚たち。その上半身は人間のようで、下半身はマンタのようだ。泳ぐウミガメの背につかまって遊び、鋭く伸びた爪で獲物を狩り、…

『オンノジ』という世界の歩き方

オンノジ (ヤングチャンピオン・コミックス)作者:施川ユウキ秋田書店Amazon突然人がいなくなった世界で、ひとりきりになった少女ミヤコ。彼女は誰もいない街をさまよいながら、世界の可笑しさや、誰もいなくなったことによって露見する世界の滑稽さに、呑気…

『就職難!! ゾンビ取りガール』のリアリティ

就職難!! ゾンビ取りガール(1) (モーニングコミックス)作者:福満しげゆき講談社Amazon今の子たちはどうなのか知りませんが、僕が学生のころ、テレビゲームや漫画に対する褒め言葉のひとつに、「リアルだ」というのがありまして。その「リアル」というの…

『もやしもん』のかもし出す笑顔

もやしもん(12) (イブニングコミックス)作者:石川雅之講談社Amazonたとえば、今の時期なら出勤時に目の端でとらえる桜を、ほんとうは時間をかけて眺めていたいと思うのですが、そうすると遅刻してしまうから、それが続けば解雇されてしまうから、お賃金…

『よつばと!』素晴らしきこの世界

よつばと!(12) (電撃コミックス)作者:あずま きよひこKADOKAWAAmazon『よつばと!』という漫画を読むとき、僕はなんというか、とても第三者だ。この作品が成り立っている世界の景色から受ける印象は、僕が見ている現実の世界から受けるそれと同じだ。よつばた…

『無限の住人』で繋がれた願いと右手

無限の住人(30) (アフタヌーンコミックス)作者:沙村広明講談社Amazon19年間に渡って連載されていた『無限の住人』が、30巻をもって完結した。読者として、24・25巻あたりから結末を強く意識し始め、新しい単行本を読むたびに、この作品はどういう終わり…