ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。主に漫画の感想です。

『PiNKS』の装幀に惹かれて

PiNKS (リュウコミックス)

PiNKS (リュウコミックス)

 

何度も繰り返される「とってもとってもスケベな夢」に悩む小学5年生の阿佐間弥彦は、「肝心なとこは見えないし、いつだってこれからって時に終わる」その夢の全貌と、スケベなことを考えると固くなる「ここ」の謎を知るために。

クラスメイトの赤城更紗は、アフロディテの性交を描いた絵画に感じた愛の存在を「たくさんの人の色々な愛と美と性、人が人を作り出す行為をうつした本」から確かめるために。

ふたりは、それぞれの理由で「えっち本」を手に入れるために協力することになったのだが……。

 

明暗を(たぶん)トーンを使わずに描き分けた暖かみのある筆致に、冒頭から引き込まれた。更紗に振りまわされる弥彦の健気さや、彼女が「愛」の存在を確かめたかった理由にも引き寄せられて、ふたりの行方に夢中になった。そして、そもそも装幀に惹かれてこの作品を手にとったわけだけれど、最後まで読んでみて、この装幀がいかにすばらしかったのかを、改めて実感した。

 

表紙に描かれているのは、「えっち本」を介してつながる弥彦と更紗だ。本編の最終ページを見たあとにカバーを眺め、なるほどと思う。(すべての漫画のカバー絵が必ずそうあるべきだということではないが)物語に関与し、その行方を予感させる意味のある絵だ。「えっち本」を持つふたりの手が最後にどうなるのかという、この作品そのものが美しく描かれている。キレイ以外の何物でもない。ため息が出る。

そして、夕日と小屋と「えっち本」を真ん中に挟んで野原に並び立つというシンメトリーズなふたりの絵を包むのは、白抜きの両サイドにタイトルと著者名と惹句が配置されているという対称性を保ったデザインだ。カッコイイ以外の何物でもない。ため息が出る。

 

さて、僕はこのカバーデザインに、まるで少しだけ開けた扉の隙間からふたりを覗いているような感覚を覚えた。そして第1話の扉絵は、額縁の中に入ったふたりの絵だ。つまりこの作品は、僕のような読者=大人は彼らふたりの鑑賞者でしかないということに自覚的なのだと思った。

子供のころの僕も性に関する悩みは尽きなかったけれど、それは弥彦や更紗とは違う悩みだ。僕の悩みの解決法は、彼らの悩みのそれにはならない。僕の性に関する考え方は、あなたを助けないし、あなたのそれも、きっと僕を助けない。性の悩みというのは、パーソナルなものだからだ。

僕は、ふたりをただ見守るしかない。子供たちを、ただ見守るしかない。僕が子供のころに感じた罪悪感や嫌悪感や興奮を忘れずに、そして子供たちが誰かを傷つけることだけはしないように、そっと見守るしかない。でも、そういう自覚をもってこの作品に臨むことができたから、この結末に、素直に胸を打たれることができたのだ。

 

書店で見かけたら、ぜひ手にとって見てほしい。きっとそのままレジへ向かうことになるだろうから。そして最後まで読んだあと、またカバーを見直してほしい。きっとため息を漏らすだろうから。