ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。主に漫画の感想です。

『亜人』の擬音の奥深さ

亜人(3) (アフタヌーンKC)

亜人(3) (アフタヌーンKC)

 

先日発売された第3巻を含めた単行本の累計発行部数が100万部を突破したそうな。(2巻から突然タッチが変わりましたが)絵柄も好きだしバトルシーンもカッコイイので楽しみにしている作品の一つではありますが、「物語」としての位置づけは保留中です。

主人公の圭、帽子の男・佐藤、それから戸崎など、それぞれの情報が小出しにされていて感情の移入先がはっきりしないのが要因だと思っています。それが嫌だということではなく、それも含めて保留しているということですが。

 

そんな『亜人』という作品について、面白いと確信している部分がありまして。それは擬音の描き方です。以下、ショッキングかつネタバレのある画像での引用を含みますのでご注意ください。 

 

桜井画門『亜人』

(桜井画門『亜人』3巻 P13)

擬音というのは、上の画像で言う「バキン」や「バッ」という音を表す文字のことですが、こんなふうに人物や背景の上に重ねたり、あるいは対象に重ならないよう、コマの余白に描かれたりするのが一般的です。

 

桜井画門『亜人』

(同3巻 P54)

『亜人』では上の画像の「ズバ」のように、人物等と背景の間に配置するという描かれ方が多用されます。感覚的な言い方になってしまいますが、一般的な擬音が認識した直後から作品を読んでいる僕の後ろへ抜けていって消えるのに対し、この描かれ方をされたコマでは、その音が埋め込まれたように、いつまでも残ります。だからコマの中で感覚的・擬似的な時間が流れて行かずに、読者が「その瞬間」を捉え続けることが可能になっているように思います。

 

桜井画門『亜人』

(同2巻 P122)

また、この「ダカカカカン」のように、描写物の正面と背後に描き分けるパターンもありました。瞬間ではなく一定の径間が擬音で描写されていて、音に包み込まれるような、言わばサラウンドな擬音の描き方であると感じます。

 

桜井画門『亜人』

桜井画門『亜人』

(同3巻 P100-101)

そして、2体の黒い幽霊による戦いの描写で鳴る「ガッ」と「ゴツ」という音です。コマのなかの手前にいる黒い幽霊と、奥側にいる黒い幽霊の間に配置されています。平面で描かれている絵のなかに、擬音によって空間が生み出されています。これは『亜人』の発明のような気がしますが、どうなのかしら。今までにも、この擬音の描き方はあったのかしら。誰か調べてくれないかしら。

 

ということで、『亜人』は視覚的、さらには時間的な奥行きを擬音を使って表現しているという点で間違いなく「面白い」作品で、漫画という媒体の奥深さをまたひとつ見せつけてくれたと思います。

掲載誌がアフタヌーン系ということもあってか、『寄生獣』と並べられる機会が多いようで、ときには「『寄生獣』を超えるか?」なんて、追いかけていることを前提で語られたりもしていますが、そもそも行き先が違うのではないかと思っているのでマイペースで進んでいって欲しいですね。