ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。主に漫画の感想です。

『白い街の夜たち』のなかで染まる私はなにいろか

白い街の夜たち 1 (ビームコミックス)

白い街の夜たち 1 (ビームコミックス)

 

新宿の街なかでトルコ料理店を営むホジャさん。彼には、直感で働いてくれそうな人を店に連れてきてしまうという、困った癖があった。服飾の専門学校に通う文子。彼女はある日、ホジャさんに声を掛けられ、我にもなくその料理店でバイトをすることになったのだが……。

 ということで、著者初の長編作品となる、市川ラク『白い街の夜たち』。トルコ料理店を舞台に、魅力的に描かれる食・舞踏・装飾といったトルコ文化、それらにふれながら「私らしさ」を探す文子の、成長・青春譚だ。

 

文子は、「すぐ流され」たり「やる気がない」自分に悩みながら日々を送っていた。しかし、不意に足を踏み入れることとなった料理店に、「私らしさ」を予感する。自分とは異なる文化や人にふれ、それらとの差異を意識することで、私というものの輪郭が浮かびあがるという予感。

たとえば、新宿という彼にとっての異文化のなかに、トルコ料理店という自分の居場所をつくったホジャさんのように、文子もトルコ料理店という異文化のなかで私らしさを見つけ、地元から離れて飛び込んだ東京という異文化のなかに、自分の居場所をつくっていくだろう。

 

また、料理店にはざくろという日本人女性もいる。彼女はプロのベリーダンサーを目指しながら、そこで働き、踊っている。彼女のセクシーでエキゾチックな舞踏シーンは、この作品のハイライトのうちのひとつだ。そして、ひょうひょうとしたホジャさんと気の強い彼女との掛け合いもおもしろい。

営業前の客席に運び込まれた大量の荷物を見て「営業できないじゃん!」と怒るざくろに対し、ホジャさんは水タバコを吸いながら「Tamam(大丈夫)」。

お店の経営状況を心配し「…もしもの時は早めに言ってね」と念を押すざくろに対し、ホジャさんは「Tamam(大丈夫)」。

客席の装飾に夢中になって、料理の仕込みを忘れたホジャさん。「他の料理は?」と尋ねるざくろに、ホジャさんは「Tamam(大丈夫)」。すかさず「タマームやめて できるかできないか言って」とざくろに詰められ、ホジャさんは素直に「できる」。ホジャさん大好き。

 

さて、そんなホジャさんとざくろの馴れ初めは、まだ語られていないし。どうやらホジャさんには日本人(?)のお嫁さんがいるようだし。文子の上京祝いに(偶然)トルコのお守りを贈った幼馴染は、そのあと○○してしまったり。それから、文子と同級生の松尾くんとの恋の行方も気になるし。この1巻には、これから文子を巻き込むであろうたくさんのエピソードのかけらが詰まっている。

「すぐに流される」ことを悩む文子は、生きていく中で自分に降りかかる様々なことの多くが、自分にはどうすることもできないこと、流されていくしかないことだということにも、気づいていくだろう。そういう流れの中で、今度は「私らしさ」を失わない生き方に悩むことにもなるだろう。

 

白い街の夜の中で、文子は彼女らしい色に染まっていけるだろうか。きっとホジャさんなら、本気なのかわからない感じで、こう言ってくれる。

「Tamam, Tamam(大丈夫、大丈夫)」