ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。主に漫画の感想です。

『GIANT KILLING』に連なる7番の系譜

GIANT KILLING(15) (モーニング KC)

GIANT KILLING(15) (モーニング KC)

 

「何度目だ」と自分に問いかけながら、またしても既刊のすべてを読み返してしまった『GIANT KILLING』。その都度、新たに心づくなにかがあって、また幾度でも手にとってしまいそうだ。

今回は、この作品の大きなトピックのひとつ、「椿大介は達海猛の再来である」という点について、改めて思い至った場面がいくつかあったので、まとめてみようかという次第。

 

椿大介は達海猛の再来なのか

「え、そうだけど? 今更?」という声も聞こえてきそうではあるが、順を追って参る。

ETUの監督である達海猛は10年前、背番号「7」を背負い、「ETUの星」と呼ばれるスター選手としてクラブに在籍していた。しかし、海外移籍直後の負傷によって、それ以降ピッチに立つことができなくなってしまい、その後、監督としてサッカーと関わる道を選ぶ。

その達海が選手としてETUで活躍していた当時、サポーターのまとめ役として足繁くスタジアムに通っていた田沼吾郎。達海の海外移籍、私生活の変化を理由にサッカー観戦から遠のいていたが、達海が監督としてETUに帰ってくることを知り、吾郎は久々にスタジアムを訪れる。その試合で、当時の達海と同じ背番号でプレーする椿大介を初めて目にして、「7番背負って敵陣に切り込んでくあの姿…… あの存在感はまるで……」*1と口にする。

リーグ戦第4節では、開幕から続くETUの連敗を止めるゴールを決めた椿を見て、「達海とはぜんぜん違うタイプの選手だけど…… あいつのプレーも俺達をワクワクさせてくれる!」*2と喜んだ。

その現役時代を知るサポーターにとって、椿大介は、達海猛を思い起こさせる存在のようだ。達海の現役時代を知らない僕は、そうなのかと思うに留まる。

 

続いてリーグ戦第13節。一部のファンはいるけれど、まだ全国的には無名の椿にいち早く目をつけて、そのルーツを取材するスポーツライターの藤澤桂。彼女は、椿という選手を見出したETUのスカウト笠野が語ったとされる言葉を、記者仲間に打ち明ける。「笠野さんが椿を見つけたときにこう言ったらしいんです『椿大介は達海猛の再来だ』って……」*3

その笠野は、同じ試合をスタンドで観戦しており、ピッチ上の椿を見て、こう独りごちる。「お前の才能が爆発する時はある共通した条件がある 決まって相手が格上のとき…… ここぞの大一番でこそ輝けるんだお前は 大舞台を自分のもんにしちまえる能力 んなもん教えられて身につくものじゃねえ 天性のもんだ そんな才能持ってんの……俺は過去に達海猛しか知らねえよ……」*4

達海の現役時代を知らない僕はやはり、そうなのかと思うに留まる。しかし、達海を彷彿とさせるという理由が、椿のプレースタイルではなく、その存在感とでも言うべき点であることが、少しずつ見えてくる。

 

そして迎えたリーグ戦第17節。相手はリーグ2連覇中の名門チーム、東京ヴィクトリー。ホームグラウンドを同じくするそのチームとの一戦は「東京ダービー」と呼ばれ、毎回が大一番だ。チームカラーの緑一色に染まる東京ヴィクトリーのホームスタジアムで、ETUのサポーターの声援は掻き消されてしまう。

そんな試合で、椿は開始早々、東京ヴィクトリーサポーターの大歓声を沈黙させる先制ゴールを叩き込む。

f:id:moo__o:20150507204242j:plain

f:id:moo__o:20150507204254j:plain

ツジトモ/綱本将也『GIANT KILLING』12巻P30-33)

結果としては引き分けに終わった試合だけれど、このゴールの印象は強烈であり、達海を思い起こさせる存在感とはこういうことなのかもしれないと、達海の現役時代を知らない僕でも、そう考え始める。

 

この東京ヴィクトリー戦後、リーグ戦もその半分を終えたところで、ストーリーは達海の現役時代に遡る。そこには、10年前の東京ダービーが描かれている。

当時から名門チームとしてその名を轟かせていた強豪である東京ヴィクトリーとの試合、ETUは先制を許すが、達海の2得点で勝利を収める。

f:id:moo__o:20150507204432j:plain

f:id:moo__o:20150507204442j:plain

ツジトモ/綱本将也『GIANT KILLING』15巻P146-149)

この逆転ゴールの場面を読んで、前述した11巻の、椿のゴールを思い出した。同じ東京ダービーで、名門チームを相手に決めた豪快なゴール。11巻の椿のそれと似た構図と演出で描かれた、このゴール。

ここに至り、達海と椿に共通する存在感はこれかと、伝聞だけではなく視覚的な情報も用い、僕はようやくそれを認知することができた。「似た構図と演出」は偶然かもしれないが、僕にとってはこのゴールこそが、「椿大介は達海猛の再来である」という言説に対する根拠となった。

 

背番号7が背負うもの

10年前の東京ダービー後、達海は負傷のためにチームを離脱する。そのひと月の間、ETUは1勝4敗という決して喜ばしいとはいえない成績を残す。業を煮やしたサポーターに、「そもそもETUは達海のワンマンチームみたいなものだから、達海が抜けて勝てるわけない」と詰め寄られた際、達海は「そっか… 俺のワンマンチームか… そんなつもりでプレーしたこと… 一度も無いんだけどな…」*5と零す。

活躍すればするほど、選手としてのプレーや成績以外にも、様々なものを背負わされていく達海。ETUの現スカウト、当時ゼネラルマネージャーだった笠野は、そんな達海を見かねて、彼にこう伝えながら海外への移籍を促した。「今のETUは 楽しそうにプレーするお前の姿に周りが惹かれていって出来ていったチームなんだ お前がそれをやめちまったら 達海猛というプレイヤーまでもが大切な何かを失っちまうよ お前は沢山の影響を周りに与えて ETUをここまでのクラブにした お前は何も間違っていない 悪いのはそれに甘えた連中だ… フロントも選手達も 加速度的に成長していくお前を前に… 共に成長していこうとせずに 結果的にお前に依存した 要するに 自分の足で立っていない お前にすがり… 自分の仕事をお前の才能に背負わせちまってる」*6

こうして達海はイングランドのチームへ移籍するのだが、その最初の試合で怪我を悪化させ、現役を退くことになってしまう。先ほど挙げた東京ヴィクトリー相手の逆転ゴールは、達海にとって現役最後のゴールなのだ。

なるほど、達海と椿には共通する特徴がある。椿は、達海の再来なのかもしれない。ならば、椿が達海のように、大きな活躍をすればするほど、やはり様々なものを背負わされ、潰れていってしまうのだろうか。

 

背番号7が受け継ぐもの

達海自身が「俺のワンマンチームというようなつもりでプレーしたことはない」と零したように、達海は、選手、そしてクラブ関係者全員が「フットボールを楽しめているかどうか」に重きをおいてプレーしていた。笠野が「ETUは楽しそうにプレーするお前の姿に周りが惹かれていって出来ていったチームなんだ」と語ったように、楽しむことで周りに影響を与え続け、ETUというクラブを大きくしていった。

一方の椿は小学生のころ、廃校間近の小学校で、数少ない全校生徒と先生たちの皆でサッカーにチャレンジすることを提案し、「走れないものには走らなくてもいいように それでいてキチンと役割があるように」*7アイディアを出し、「誰一人欠けることなく全員で楽しむ…… その一心だけで」*8サッカーに対して真剣に取り組んだ。

10年後、サッカー五輪代表に選出された椿を、その当時の小学校校長はこう激励する。「お前さんが頑張ってくれとるお陰で 私達はつながっていられる 大介の姿を見て 皆頑張ろうと思ったり その活躍に盛り上がったりして 日常が楽しさで彩られる わかるか? 大介 お前さんのプレーは知らんうちに そうやって沢山の人を幸せにしとるんだよ」*9

椿も達海と同じように、全員で楽しむことを踏まえたそのプレーで、周りに大きな影響を与えていたのだ。

 

背番号7が断ち切るもの 

では、椿が達海のように、もっと多くの人々に影響をあたえるような大きな存在になったとき、その存在以上に大きなものを背負わされてしまうのだろうか。

10年前の活気あふれるETUに思いを馳せる会長の「皆がお前に夢を見ている」という言葉に、監督である達海は「俺にどうして欲しいのか?」と問いかけた上で、「俺は神様じゃないぜ? 俺一人じゃ無理だよそんなん DFは相手の攻撃防ぐのが仕事…… FWはゴール狙うのが仕事 それは最低限の役割…… 役割をおろそかにしたらゲームは成り立たない でも組織として差が出るのは 個々がどれだけ役割以上のことが出来るかだよ 俺がやりたいのはさ…… そういうフットボールなんだよ」*10と語った。

彼に監督という仕事以上のものを背負わせようとする会長に、それぞれの「役割」を説く達海。「役割」とは、何だろう。

達海はETUの監督就任直後、チームのキャプテンとして様々なものを背負い込もうとする村越に対し、「チーム事情…… チームのバランス…… 戦術 そんなもんまでお前が背負い込む必要はねえ 俺に言わせりゃ…… お前はただ…… いい監督に恵まれなかっただけだ お前は紅白戦で負けた 若手に比べりゃまるで走れねぇ それでも勝てる自分の武器を これからお前は死ぬ気で探せ その代わり…… お前が背負ってきたもんの半分は これから俺が命がけで背負ってやるよ」*11と話していた。

もし椿が必要以上のものを背負わされそうになったとしたら、達海はそれを替わりに背負って立つのだろう。達海はそのために、自分が背負う必要のないものは、会長や後藤や有里や松原コーチに預けようとする。それを代わりに背負うのが、クラブに携わる人たちの「役割」なのだ。そして、それぞれが背負うべきものだけを背負い、伸びるべき方向へ伸びることができたときにきっと、それぞれの「役割以上」が発揮される。達海が会長に語ったのは、そういう話だと思っている。

達海が監督でいる限り、椿がその存在以上のものを、無理に背負わされることはないだろう。

 

おわりに 

その背番号とともに背負うべきものだけを背負い、さらに大きく飛躍していくであろうETUの元7番、そして現7番のこれからが、ますます楽しみだ。

『GIANT KILLING』というすばらしい作品が、どうか最後まで作者の思うまま描き切られますようにと願いながら、こういった感想文を書いている。それがファンとしての「役割以上」となって、わずかでも力添えになれるなら、この上ない喜びだ。

GIANT KILLING(12) (モーニング KC)

GIANT KILLING(12) (モーニング KC)

 

*1:ツジトモ/綱本将也『GIANT KILLING』2巻P177

*2:同6巻P20

*3:同10巻P102

*4:同11巻P129-130

*5:同15巻P214

*6:同16巻P38-40

*7:同9巻P173

*8:同9巻P175

*9:同27巻P145-146

*10:同14巻P105-107

*11:同1巻P182-184