ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。主に漫画の感想です。

『鋼の錬金術師』で切られた大見得

鋼の錬金術師 27 (ガンガンコミックス)

鋼の錬金術師 27 (ガンガンコミックス)

『鋼の錬金術師』が完結しました。こう、最後まで描き切られた感のある少年マンガって、本当にすばらしいですね。ということで、今回は『鋼の錬金術師』に見られる特徴的なコマ割りと、その効果についてのお話です。

『鋼の錬金術師』では、上から下まで縦に断ち切って分割したコマで構成されたページが、主に物語の要所で何度か使われていて、その中にもいくつかのパターンがあるように見受けられます。ひとつずつ見てみましょう。

ひとつめ

両サイドのコマにプロットを展開させるキャラクターを配置し、その内側に受動的なキャラクター、あるいはフラッシュバックを挟む、というコマ割りがあります。

f:id:moo__o:20130729192834j:plain
(荒川弘『鋼の錬金術師』2巻 P31)

f:id:moo__o:20130729192846j:plain
(同16巻 P113)

まずは2巻P31、ショウ・タッカーが合成獣を造ったのではないかと疑うエドワードと、そのエドを「勘のいいガキ」であるとタッカーが評することで、それが事実であることが判明するというページです。

ページの右から、エドの言葉→アルフォンスの気付き→タッカーの返答と進む流れのなかで、アルフォンスのコマはプロット的には不要です。しかしこのコマを挟むことにより、読者はエドの「ニーナとアレキサンダー、どこに行った?」という言葉に「気付くべき点がある」ことに気付くことが可能であり、それがタッカーの返答の前というタイミングに配置されていることで、読者はより物語に肉迫することになります。つまり、アルフォンスの気付きは読者の気付きであるとも言え、だから読み進めるリズムを邪魔することにもならない、非常に巧みなコマ割りだと思います。

16巻P113では、両サイドのコマに配置されたスカーとキンブリーが、中央のフラッシュバックを挟んでお互いの因縁を認識するという内容です。2巻P31と同様に、ページ中央のコマのフラッシュバックは、彼らのそれであると同時に読者のそれでもあると言えそうです。

ふたつめ

ひとつめと同様、縦に断ち切られたコマで、同一キャラクターの台詞を分割するというパターンも見られます。

f:id:moo__o:20130729192926j:plain
(同23巻 P180)

f:id:moo__o:20130729192936j:plain
(同26巻 P128)

ひとりのキャラクターが発する台詞を、わざわざセンテンスごとにコマで区切るというこの手法に、まるで歌舞伎役者が見得を切っているようなカッコ良さを覚えます。また、ともすれば古くさく感じられそうなこの演出により、却って主人公たちの一貫した真っ直ぐさが強調されているようにも思います。

みっつめ

そして、これまでに見てきたふたつのパターンを合わせた演出がこちらです。

f:id:moo__o:20130729193009j:plain

f:id:moo__o:20130729193029j:plain

f:id:moo__o:20130729193045j:plain
(同27巻 P74-76)

一番上のページでひとつめのパターン、中央のページでエドがホムンクルスを「素手で」殴るという見開きを挟んで、下のページでふたつめのパターンです。グリードの開放へと繋がるこのシーン、最終巻においても一、二を争う見せ場ではないでしょうか。まさに、大見得が切られた瞬間でした。


ところで、これは蛇足となりますが、このシーンが見せ場である理由がもうひとつ。エドの台詞に聞き覚えがありますね。

f:id:moo__o:20130729193058j:plain
(同1巻 P57)

エドは1巻の第1話でも、同じ台詞で見得を切っておられました。同じ台詞ではありますが、1巻でのそれと比べ、最終巻で彼の言う「格」という言葉には、連載期間9年以上に渡る、この物語の重みがしっかりと根付いているようです。