ホンダナノスキマ

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『ヒナまつり』のツッコミにやさしさと覚悟はあるか

ヒナまつり 2 (ビームコミックス)

ヒナまつり 2 (ビームコミックス)

さて、この作品はギャグマンガであろうか。1巻がまさに「笑撃」であったことに異論はないが、先月発売された2巻を読み、こうした疑問が沸きあがってきたのである。


ギャグというからには、そこには笑いを発生させる要因があり、この作品において、それがサイキック少女たるヒナであることは間違いない。しかしヒナは、日本という社会の性質に疎い子供であり、その行動や言動は、笑いを意図するものではない。だからヒナはボケているわけではないのだが、なぜそれが笑いに転化するのかといえば、新田の存在である。新田のツッコミにより、読者は直前のヒナの行動や言動をボケであると認識し、笑いが生まれる。

また、新田がヤクザであるという設定ゆえに、そのツッコミは、法律や社会規範といったものを拠りどころにしている必要がない。公的なツッコミではなく私的なそれということだ。つまり新田のツッコミは、ヒナの乏しい社会性を向上させようとする教育や、利益を前提とした命令ではなく、新田自身の規範における躾である。超能力で脅迫されているにも関わらず、ヒナをひとりの人間として扱う新田に対し、だからこそヒナは「私の知ってる大人とは全然違う」と感じるのだ。


1巻終盤、ヒナの世話にかまけて自分が「遊んでいない」と気づいた新田は、ヒナを放置して夜遊びを繰り返す。それが面白くないヒナは、得意の超能力で新田に「天罰」を加えようと考える。しかし、ある人物に「言わなきゃ伝わらない」と諭されたヒナは、「私も新田と遊びたい」という思いを言葉で伝える、という場面がある。その思いとは、「私も新田とキャバクラ行ってみたい」であり、バーで飲んでいた新田はこれに対し、一度は「何でだよ!」とツッコミを入れる。しかし酔いも手伝い、バーの客をも巻き込んで、結局はキャバクラに繰り出すのである。

これは、ヒナの未熟な欲望と、新田のヒナに対する躾の規範が相反しないギリギリの接点が「キャバクラ」だったのであり、新田が酔っているとはいえ、ヒナが超能力を使わずに、人と人とのコミュニケーションによってふたりの交流を成立させたという見せ場である。だから1巻144、145ページの「キャ! バ! ク! ラ!」という見開きは、非常に感動的なのだ。

ギャグマンガは、相手に対する(ボケるだろうとかツッコむだろうという)信頼関係の上に成り立っている。ヒナの傍若無人なわがままは、新田を信頼しているからこそで、それをボケに転化させる新田のツッコミは、愛と同じだ。愛に溢れているからこそ、1巻の新田はあんなにもキュートで、愛おしい存在だったのである。


2巻に進むと、ヒナと出自を同じくするサイキック少女である、アンズの登場回数が増える。どうも、このアンズというキャラクターの扱いがむずかしい。

アンズもわがままではあるが、プライドが高く他人に頼ることが得意ではない。ある日、アンズは元の世界に帰ることができなくなってしまうが、新田に頼ることをよしとしない。結局、公園に張ったテントで暮らすホームレスの一団と寝食をともにすることになり、彼らの社会を学び、そこにとけこんでいく。しかしアンズは、彼らを相手にボケることをしない。まわりはアンズにツッコまない。後日、わけあってヒナがアンズのテントに転がりこむが、彼女のわがままに耐えきれず、3日で勘当してしまう。ヒナを相手に、ツッコミにまわることも拒否している。

つまり、アンズというキャラクターが、ボケなのかツッコミなのかがはっきりしないのだ。この作品をギャグマンガとして考えたときに、それがアンズのというキャラクターの扱いがむずかしいという理由であり、同時に2巻における笑いが減少した理由である。

2巻における笑い、たとえば冒頭のあっち向いてホイはただの顔芸であるし、終盤のヒナのスピーチは、ボケ(ヒナ)もツッコミ(生徒たち)も、他の誰かに置換可能である。先に述べたように、ギャグマンガは相手に対する信頼関係の上に成り立っている。だから2巻はギャグマンガではなく、「世間知らずの子供たちが『空気を読む』という意味での成長を目指す、ユーモアを交えた物語」だ。

自らのアイデンティティを丸ごと相手に投げ出し、受けてもらう(=ボケて、ツッコんでもらう)という文脈でのギャグマンガでなくなった『ヒナまつり』に、1巻の「キャ! バ! ク! ラ!」という見開きで得られたような感動は、もう期待できないかもしれない。個人的には、アンズが今後も頻繁に登場するのであれば、彼女のプライドの高さやわがままをがボケとして成立させるような新たなキャラクターの登場を、あるいは既に登場しているキャラクターの成長を待ちわびている。


大事なことなのでもう一度言おう。ツッコミとは、愛である。