ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。主に漫画の感想です。

このマンガがすごい好き!2011

年末です。この一年を、振り返らなければいけません。だから、選ばなければいけません。ということで、「2011年中に『初めて』単行本が発売された作品」という縛りでマイベストを10タイトルご紹介です。

1.『外天楼』/石黒正数

外天楼 (KCデラックス 文芸第三出版)

外天楼 (KCデラックス 文芸第三出版)

いわゆるミステリ作品を読み始める際に、何となく態勢を整えてしまうのは僕だけではないと思うが、この作品の長閑な導入部はそれを許さない。半分以上読み進めても、多少の居心地の悪さ、期待される石黒正数的な非日常内の日常性に対する違和感は覚えているが、やはり散見される期待通りの石黒正数的な非日常内の日常性によって、態勢は整っていない。だから、襲いくる最後の六十数ページの、読者に浴びせる衝撃がかつてないものだったのは、必然である。

ここまで文句なしの「一冊」は、近年心当たりがない。

2.『25時のバカンス』/市川春子

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)

これは、愛の話だ。愛は、グロテスクである。しかし、市川春子の描くグロテスクは艶やかだ。だから、愛は美しい。

圧倒的。いやまじで。

3.『水域』/漆原友紀

水域(上) (アフタヌーンKC)

水域(上) (アフタヌーンKC)

少女が自身のルーツを辿るというテーマ、柔らかな描線、幽玄な背景、日本の言葉、何もかもが美しい。

紙面から、水の匂いがするような。

(関連記事:『水域』に日々落ちるしずくで湛えられていく私という人生

4.『寿司ガール』/安田弘之

寿司ガール 1 (BUNCH COMICS)

寿司ガール 1 (BUNCH COMICS)

特筆すべきは寿司ガールたちの造形だ。例えば、この作品を読んだことのない人に話の内容は伝えずに彼女たちの姿を見せたとしても、「コハダさん=幸薄そう」「イカちゃん=天然ぽい」「玉たん=あざとそう」というような、実際の設定に則した印象を持ち得るのではないだろうか。

シンプルな線でパーフェクトに表現された寿司ガールズを、ぜひその目で。

(関連記事:『寿司ガール』は女の鏡

5.『かわいそうな真弓さん』/西村ツチカ

かわいそうな真弓さん(リュウコミックス)

かわいそうな真弓さん(リュウコミックス)

強烈にデフォルメされたキャラクターや、歪んだ背景で構成されたその世界は、確かに読者を不安にさせる。しかしページから目を上げてみるとどうだろう。この世界も、同じように歪んでいやしないだろうか。僕たちは、お互いを強烈にデフォルメし合っていないだろうか。

不安な世界に生きる彼らは、僕らだ。

(関連記事:『かわいそうな真弓さん』を読んで僕とダンス!

6.『ミラーボール・フラッシング・マジック』/ヤマシタトモコ

ミラーボール・フラッシング・マジック (Feelコミックス)

ミラーボール・フラッシング・マジック (Feelコミックス)

それでも他人と関わりたいという欲望や、望む・望まないに関わらず他人と影響を及ぼし合ってしまうのだという覚悟や、決して伝わらない思いを可視化する象徴や、背中を押されたいという願望や、背中を押されたからというアリバイや、そういったなんやかんやが詰まった表題作は、とても率直に「ヤマシタトモコ」を表しているという意味で、重要なタイトルではなかろうかと思ったり。

あと、「dont' TRUST over TEEN」における、彼女の家が銭湯という設定によって、体臭が気になるお年ごろであるところの中年男性たる彼氏が、近距離で女学生4人と絡むことになるクライマックスに風呂上りで臨める、というヤマシタトモコの優しさに感涙を禁じ得ない。

7.『地獄のアリス』/松本次郎

地獄のアリス 1

地獄のアリス 1

タッチの荒い絵に惹かれる。視覚を通じて脳みそをグリグリされている気分になりやすいから。絵に引き込まれるっていうのは、そういうことだ。

「世紀末×思春期」というのも素晴らしい破壊力。

8.『逃げる男』/オノ・ナツメ

逃げる男 (Fx COMICS)

逃げる男 (Fx COMICS)

オノ・ナツメの作品は静かだ。台詞のないコマが何ページにもわたって続くような描写が繰り返されるこのタイトルは、特にそれが顕著だろう。だからといって、なにも聞こえないわけではない。静かだからこそ鳴る音が響いていて、それが読者の耳に届くように描かれている。「男」がボロボロのジャケットに袖を通したとき、あなたはどんな音を聞いただろうか。

オノ・ナツメの作品は静かだ。その紙面は、読者のまわりの音をも吸いこんでいく。

9.『軍靴のバルツァー』/中島三千恒

軍靴のバルツァー 1 (BUNCH COMICS)

軍靴のバルツァー 1 (BUNCH COMICS)

この完成度の高さはただ事じゃない。欲を言えば(もしかしたらその完成度の高さとトレードオフの関係にあるのかもしれないけれど)作品に対する作者の「思い」を、もっと物語の中で誇示して欲しい。それがキャラクターたちの感情となり、読者の感情になる。

もっと揺さぶられたい。

10.『帝一の國』/古屋兎丸

帝一の國 1 (ジャンプコミックス)

帝一の國 1 (ジャンプコミックス)

「芝居がかった」という形容は揶揄を含んだニュアンスで使われることが多い。しかし、この作品を一言で表すにはそれが一番しっくりくる。戦後の昭和という国民総芝居がかっていた舞台に登場するのは、思春期真っ只中というさらに芝居がかった少年たち。このテンションは癖になる。

それぞれの場面がスタンドアローンであるような、独特のコマ割りも印象的。


ということで、以上10作品でした。来年も、素敵なマンガに出会えますように。