
- 作者: こうの史代
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2012/05/27
- メディア: コミック
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なにが素晴らしいかと言えば、まずはテキスト部分がほぼ原文のまま(漢字かな交じりの書き下し文)であること。僕は原文だけ読んですべてを理解することはできませんが、こうの先生の伸びやかな絵と、ご本人による注釈のおかげで、意味を読み解くのはむずしくありません。そうやって、口語訳されたり敬語が使われたりしていない『古事記』そのものを読むことができるということは、その解釈を自分ですることができるということです。
さらに、『古事記』には様々なキャラクター(というか神々)が登場しますが、基本的には「彼らが言ったこと」や「彼らが起こしたこと」が淡々と書かれています。なぜそれを言ったのか、なぜそれを起こしたのかといったような、いわゆる心理描写は多くありません。だからこそ読者は『古事記』に対して自由に思いを馳せることが可能で、こうの先生の絵と注釈が、その手助けを絶妙にこなしてくれているのです。
そしてもう一点素晴らしいのが、ボールペンのみで描かれているということ。キュートで伸びやかで、ときに残酷で、といった多彩な絵が魅力的なのはもちろんなのですが、それをボールペンのみで描いたというのは大変なことだと思うのです。
『古事記』というのは、日本最古の神話ですから当たり前ですが、これ以上古くなる、風化するということはありえません。
それを、日常生活レベルにおいて最も身近で最もスタンダードで、これからも最も使われ続けるであろうボールペンという画材のみで、そしてテキストは原文のままで表現した漫画というのも、だから今後風化することはないんじゃないでしょうか。
原文のままのテキストに直接触れることで、登場する神々と、あるいは『古事記』を書いた人と同じ地平に立つことができること。つまり、彼らの悠々とした生き方を別世界のものとせずに、自分の生き方と比べたりできること。
ボールペンのみで描かれた、風化しないであろう作品であること。つまり、これからもそばに置いておけること。折にふれて、読み返すことができるということ。
それが、この作品を「僕らの『古事記』」と呼びたくなってしまう理由です。
ということで、僕らの『ぼおるぺん古事記』、一家に一冊レベルでオススメです。お子様からお年寄りまで、きっと同じ目線で楽しめることでしょう。原文のままですからね。原文原文ってしつこいですか。しかしですね、口語体で書かれた文章っていうのが個人的に好みではないんですよ(口語体)。読みやすいだけで全然頭に残らないんだもん(口語体)。