ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。主に漫画の感想です。

『暗殺教室』で学ぶ覚悟

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

椚ヶ丘中学校3年E組――通称「エンドのE組」は、進学校のレベルについていけなかった脱落者たちを集めたクラス。学食もなければ便所も汚い隔離校舎で行われる授業は「暗殺」、担任は謎の生物「殺せんせー」。殺せないから、殺せんせー。

ある日、月の7割を蒸発させる爆発が起こる。その犯人だと名乗り出た謎の生物は国に対し、「来年には地球を爆発させる」と予告、同時に「椚ヶ丘中学校3年E組の担任ならやってもいい」と提案する。

満月を永遠の三日月に変えるほどのパワーを持ち、最高速度マッハ20で動くこの生物に手も足も出ない政府は、「生徒に絶対に危害を加えない事」を条件に、その提案を了承する。こうして椚ヶ丘中学校3年E組は、生徒たちによる殺せんせーの殺害を目的とした暗殺教室となったのだった――。


ということで、『魔人探偵脳噛ネウロ』の松井優征先生による待望の新作、『暗殺教室』です。常軌を逸した設定と内容ですが、松井先生の軽妙な語り口とユーモアで読み味はとても軽やかです。

さて、この殺せんせーですが「来年には地球を破壊する、それが嫌なら自分を殺せ」などと言う割に、端々で教育者として真っ当であるかのような一面を覗かせます。たとえば、ある生徒が他の生徒を大切にしない、またある生徒が自分を大切にしない方法で暗殺を試みた際には、「人に笑顔で胸を張れる暗殺をしましょう」と説教したり。そんな殺せんせーやその教育について、ある生徒はこう感じます。

マッハ20で怒られて うねる触手で褒められた
異常な教育が僕は普通に嬉しかった
この異常な先生は・・・
僕らの事を正面から見てくれたから
暗殺なんてした事無いし
僕等には他にすべき事が沢山ある・・・けど思った
この先生なら・・・殺意さえも受け止めてくれるって

(松井優征『暗殺教室』1巻 P51-54)

また、殺せんせーは先生になった理由をこう話します。

ある人との約束を守るために君達の先生になりました
私は地球を滅ぼしますがその前に君達の先生です
君達と真剣に向き合う事は・・・地球の終わりよりも重要なのです

(同1巻 P75-76)

隔離校舎で「あらゆる面でカスみたいに差別され」、それによって他の「大半の生徒が緊張感と優越感を持ち頑張る」ために存在する「エンドのE組」の生徒たちは、他人から人として認識されていないという劣等感を抱えています。

そこに、相手の存在を軽んじては成立しない、さらには人の持つ感情の中で最も強い部類に入る想いであると言えそうな、「殺す」「殺される」という関係性を持ちこむことで、殺せんせーは他人と「真剣に向き合う」ことを生徒たちに教えようとようとしているのです。

けれど、そのために、その関係性を迫真のものとするために、殺せんせーは月の爆破と地球の破壊予告を実行しました。生徒たちは、それに応じて殺せんせーに刃を向けます。本意はどうあれ、殺せんせーの悪意、そして生徒たちの殺意は、もう取り消すことはできません。

この物語がどういった結末を迎えるのかはわかりませんが、そのあたりに対しても、なんらかの落とし前をつけてくれるのだと思っています。そこに、殺せんせーの、そして松井先生の本作に対する覚悟のようなものをヒシヒシと感じるのです。