ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。

『変身のニュース』が眩しい理由

『変身のニュース』には、雲になりたいと願う妹とその兄たち、死んだ恋人から送られてくる奇妙なプレゼントを受けとる女性、57回に及ぶ人工臓器の入れ替えで生きながらえながら「パパより先に死なない」という約束を果たそうとする少女、虫垂炎の手術を終えて戻ってきた妻に違和感を拭えない夫といったキャラクターたちが登場する。

彼らはなにかを失ったあとで、あるいはなにかを失いたくなくて、自分を投げ出そうとする。けれど、思いがけない別のなにかによって、思いがけないタイミングで、偶然それを取り戻したりする。

不測な世界に振り回されて、なにかを失い自分を投げ出し、世界の奇遇でそれを取り戻す。彼らは、世界に生かされている。

また、彼らはシンプルで白い背景のなかに、細く頼りなさ気な線で描かれる。と思えば、荒いタッチで描き込まれた暗い背景のなかに、同様に荒いタッチで黒く描かれたりもする。

死と生だったり、喪失と獲得だったり、そういったテーマで一貫しているように思える物語を読み進むうちに、白い紙面と細い線から生の頼りなさを感じ、暗い紙面と荒いタッチから瞬く情動を見る。

彼らが頼りなさ気な細い線で描かれるのは、彼らの生気以上にまばゆく白い背景に、その輪郭が霞むからだ。ときに垣間見える暗く荒い情動は、彼らの放つ精彩だ。そしてそれは、世界の目映さを一層際立たせる。彼らが生かされる世界は、だから眩しい。『変身のニュース』は、だから眩しい。



僕が生きている世界が眩しいのではなく、眩しい世界に僕が生かされている。僕の暗く荒い情動も、その眩しさを際立たせることができる。

世界の一部としてただ居ればいいんだと、そうなふうに思わせてくれる大切な作品だ。