『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』けれど
ある雨の日に、かわいい系のおじさんであるところの僕が、ダンボール箱に入れられて、道端に捨てられていたとしよう。通りかかったあなたは、僕をひと目見て拾いたいという衝動に駆られるが、おじさんを飼ってはいけないアパートに住んでいるので、近くのコンビニで急ぎ買った牛乳と、自分が差していた傘だけ置いて、そこを足早に立ち去るのだ。
僕はさみしさに包まれる。「置いて行かれた」というさみしさに。拾わないならほかになにもされたくないから、差された傘を打ち捨て、牛乳には手をつけない。そして翌日、また同じ道を通ったあなたも、打ち捨てられた傘と未開封の牛乳を見て、さみしさに包まれる。「私の愛が届いていない」というさみしさに。
続きを読む『ちーちゃんはちょっと足りない』で溢れだしたもの
その友人の旭の言を借りれば、「言葉や考えが足りない」ちーちゃんこと南山千恵、中学2年生。社会科のテストで23点をたたき出して歓喜のダンスを踊ったり、日曜朝アニメのグッズのガチャガチャがやりたくて、やっと覚えた九九(間違えてる)を披露しながら姉に200円をねだったり。
もうひとりの友人である小林ナツは、「フリーソフトをインストール」と聞いて「首に巻くストールとパソコンにどんな関係が?」と返したりして、またまた旭の言を借りれば、「千恵の陰に隠れてけっこういかつい」。
学業や恋に悩みながらも笑い合いながら過ぎていく、そんな女子中学生3人のほのぼのとした日常が綴られる――と思いきや。
続きを読む『ノストラダムス・ラブ』イズ・オーヴァー
1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってきて、地球は滅亡する――。
幼少時からノストラダムスの大予言にふれて育ち、「あたしが19歳になったら、せかいがおわる。しぬ。」と思い込んでいる村山桜は、1999年、大学2年生の夏休みをむかえていた。世界の終りまであと10日足らずとなった日、桜の住むアパートの隣人である森に交際を申し込まれ、「世界の終わりを一緒に迎える人」として、彼と付き合うことになる。
続きを読む『千年万年りんごの子』という神話に結ばれた約束と果実
生まれてまもなく寺の縁側に捨てられたという過去をもつ雪之丞は、大学を出てすぐに、雪国のりんご農家に婿入りする。慣れない農作業や、田舎特有の他人との距離の近さに戸惑いながらも、農家の婿としての生活を積み重ねていた。
冬のある日、妻の朝日が風邪をひいて寝込んでしまう。そんな彼女に、土着の神として”おぼすな様”と呼ばれる木に実ったりんごを食べさせてしまう雪之丞。
村には、「嫁立て」と呼ばれる十二年に一度の人身供犠があった。おぼすな様のりんごを食べた村の既婚女性のひとりを、おぼすな様が嫁として「連れていく」のだ。あるできごとがきっかけで、その風習は六十年前に絶たれたが、おぼすな様は禁忌として祭られ続けていた。
そのりんごを食べてしまった朝日。彼女が連れていかれることを諦められない雪之丞は、雪国の閉じた村でひとり抗い始める――。
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