ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。

コラム

『ワールドトリガー』という不都合な引金が描くもの

ワールドトリガー 10 (ジャンプコミックスDIGITAL) 作者:葦原大介 集英社 Amazon 『ワールドトリガー』という漫画を1巻から夢中で読み続けているのだけれど、ストーリーの展開についてひとつだけ疑問があった。6巻で幕を開ける「大規模侵攻」という大イベン…

『第七女子会彷徨』の中の「徨彷会子女七第」

第七女子会彷徨(7) (RYU COMICS) 作者:つばな 徳間書店(リュウ・コミックス) Amazon 女子高生の金やんと高木さんが過ごす、すこしふしぎな日常が一話完結の形式で綴られてきた『第七女子会彷徨』。その7巻に、「幾重不明回廊」という初の長編が収録された…

『惡の華』のおしまいによせて

惡の華(11) (週刊少年マガジンコミックス) 作者:押見修造 講談社 Amazon 押見修造の漫画作品である『惡の華』が、この十一巻をもって完結した。最初の単行本から一貫して「この漫画を、今、思春期に苛まれているすべての少年少女、かつて思春期に苛まれ…

『ちーちゃんはちょっと足りない』で溢れだしたもの

ちーちゃんはちょっと足りない (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ もっと!) 作者:阿部共実 秋田書店 Amazon その友人の旭の言を借りれば、「言葉や考えが足りない」ちーちゃんこと南山千恵、中学2年生。社会科のテストで23点をたたき出して歓喜の…

『ノストラダムス・ラブ』イズ・オーヴァー

ノストラダムス・ラブ (IKKI COMIX) 作者:冬川智子 小学館 Amazon 1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってきて、地球は滅亡する――。 幼少時からノストラダムスの大予言にふれて育ち、「あたしが19歳になったら、せかいがおわる。しぬ。」と思い込んでいる村…

『千年万年りんごの子』という神話に結ばれた約束と果実

千年万年りんごの子(3) (ITANコミックス) 作者:田中相 講談社 Amazon 生まれてまもなく寺の縁側に捨てられたという過去をもつ雪之丞は、大学を出てすぐに、雪国のりんご農家に婿入りする。慣れない農作業や、田舎特有の他人との距離の近さに戸惑いな…

『バベルの図書館』に記されていない言葉を探せ

バベルの図書館 作者:つばな 太田出版 Amazon 年若いころ、多分にもれず「ここではないどこか」に焦がれて、ひとつ気づいたことがある。「ここ」を見る自身の瞳に反射した鏡像が、「どこか」へ抜け出すための扉なのだ。 しかし、それを自分で見ることはでき…

『町でうわさの天狗の子』を「自分だけは助けてやれる」理由とは

町でうわさの天狗の子(12) (フラワーコミックスα) 作者:岩本ナオ 小学館 Amazon いつもと同じ平素な時間のことを、日常と呼ぶ。その始まりは、とても小さな範囲でしかない。一歩踏み出せば、そこはもう非日常だ。 たとえば母親とふたりでいる空間のよう…

『ぼくらのゆくえは』という関係性

ぼくらのゆくえは (マーガレットコミックスDIGITAL) 作者:渡辺カナ 集英社 Amazon 29歳の朝海雪夫は漫画家だが、初の連載作品が打ち切られて以来、ネームを通すことができず、自分がなにを描きたかったのかも見失い、この2年間はペンも持たずにコンビニのア…

『羣青』のメガネさんが風邪を引き続けた理由

羣青 下 (IKKI COMIX) 作者:中村珍 小学館 Amazon 一年と少し前、『羣青』という漫画について、僕は感想文を書きました。読み終えた勢いそのままに(けれど最終巻が発売されて間もない時期だったためネタバレを避けつつ)書いたので、内容にはほとんどふれず…

『アリスと蔵六』について思っていること

アリスと蔵六(1) (RYU COMICS) 作者:今井哲也 徳間書店(リュウ・コミックス) Amazon 自分の想像したものをなんでもひとつだけ現実にしてしまうことができる、”トランプ”という特殊な能力を持った特異能力者たち。”アリスの夢”と呼ばれる彼らを管理する研究…

『放浪息子』はどこまでも

放浪息子15 (ビームコミックス) 作者:志村 貴子 KADOKAWA Amazon 今からちょうど10年前に、『放浪息子』の第1巻が発売された。それから今日まで、二鳥修一を見続けた。巻を重ねるにつれ、彼の身体的な成長にともなう骨格や肉付きの変化が、迷いのない(よう…

『ひばりの朝』を迎えて

ひばりの朝 (1) (FEEL COMICS)作者:ヤマシタトモコ祥伝社Amazonすぐに忘れてしまうのです。この作品のタイトルが、『ひばりの朝』だということを。すぐに見失ってしまうのです。この作品は、朝を待つひばりの話だということを。

『私という猫 ~呼び声~』と私について

私という猫 ~呼び声~ (バーズコミックス スペシャル)作者:イシデ電幻冬舎コミックスAmazon 知らなかっただろ どんなやつらが どんな場所で どんなふうに生きているか 自分がどんな世界にいるのか知りもしないで どうやってひとりで生きていくんだよ ひとり…

『オンノジ』という世界の歩き方

オンノジ (ヤングチャンピオン・コミックス)作者:施川ユウキ秋田書店Amazon突然人がいなくなった世界で、ひとりきりになった少女ミヤコ。彼女は誰もいない街をさまよいながら、世界の可笑しさや、誰もいなくなったことによって露見する世界の滑稽さに、呑気…

『もやしもん』のかもし出す笑顔

もやしもん(12) (イブニングコミックス)作者:石川雅之講談社Amazonたとえば、今の時期なら出勤時に目の端でとらえる桜を、ほんとうは時間をかけて眺めていたいと思うのですが、そうすると遅刻してしまうから、それが続けば解雇されてしまうから、お賃金…

『よつばと!』素晴らしきこの世界

よつばと!(12) (電撃コミックス)作者:あずま きよひこKADOKAWAAmazon『よつばと!』という漫画を読むとき、僕はなんというか、とても第三者だ。この作品が成り立っている世界の景色から受ける印象は、僕が見ている現実の世界から受けるそれと同じだ。よつばた…

『無限の住人』で繋がれた願いと右手

無限の住人(30) (アフタヌーンコミックス)作者:沙村広明講談社Amazon19年間に渡って連載されていた『無限の住人』が、30巻をもって完結した。読者として、24・25巻あたりから結末を強く意識し始め、新しい単行本を読むたびに、この作品はどういう終わり…

『きみの家族』の軽やかな愛情

きみの家族 (芳文社コミックス)作者:サメマチオ芳文社Amazon『きみの家族』では、平山家という家族から、結婚のために姉が、大学進学のために弟が実家を離れていく様子が描かれている。四人家族の平山家だが、もちろん最初は父と母のふたりだけであり、姉が…

『町でうわさの天狗の子』の強固な日常

町でうわさの天狗の子(9) (フラワーコミックスα)作者:岩本ナオ小学館Amazon「年上好きのお母さんは夏祭りの夜に450歳年上のお父さんと恋に落ちた。」という冒頭の一節。500年近く生きている天狗のいる世界、つまり読者のそれとは違う世界が描かれているの…

『ぼくらのよあけ』で語られる強くしなやかな生きかたとは

ぼくらのよあけ(1) (アフタヌーンコミックス)作者:今井哲也講談社Amazonこの作品は、沢渡悠真をはじめとする子供たちが、自分の星へ戻ることができなくなってしまった探査船「二月の黎明」号を宇宙へ帰そうと奮闘するなかで成長していくという物語だ。 地…

『虫と歌』とヒトと言葉と

虫と歌 市川春子作品集 (アフタヌーンコミックス)作者:市川春子講談社Amazonたとえば、外見も中身もヒトにほど近いロボットのようなものができたとして。それが言う「あなたを愛しています」と、ヒトの言う「あなたを愛しています」の、それぞれの「愛」の間…

『モテキ』に移ろう、君の中の俺

モテキ(4) (イブニングコミックス)作者:久保ミツロウ講談社Amazon自分のことや誰かのことを想うというのは、たとえば空に浮かぶ雲を見て、「何の形に見える?」と問いかけるのと同じだ。小宮山夏樹の言葉。

『ヒメアノ~ル』とは誰の物語だったのか

ヒメアノ~ル(6) (ヤングマガジンコミックス)作者:古谷実講談社Amazon古谷実の7作目にあたる、『ヒメアノ~ル』が完結した。この作品を、5作目『シガテラ』、6作目『わにとかげぎす』に見られる「ごく一般的な小市民である主人公のタナボタ的な恋愛を含む…