ホンダナノスキマ

本棚の隙間です。

『ワールドトリガー』という不都合な引金が描くもの

『ワールドトリガー』という漫画を1巻から夢中で読み続けているのだけれど、ストーリーの展開についてひとつだけ疑問があった。6巻で幕を開ける「大規模侵攻」という大イベントの、物語へ投下されるタイミングが早すぎたのではないかという疑問だ。

しかし、「大規模侵攻」の幕引きとなった10巻を読んで、その疑問は解消した。そして同時に、『ワールドトリガー』の主人公が三雲修であるその訳をまるっと理解できた気がしないでもないので、ちょっとまとめてみたくないでもない。

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『逆流主婦ワイフ』はそこで淀んでいるわけにはいかない

僕は家事が好きだ。料理のレパートリーが豊富というわけでもないし、家のなかが常にピカピカかといえばそうでもないから、好きというと語弊があるかもしれないが、炊事洗濯掃除など家事と呼ばれる作業が苦ではないのは確かだ。

たとえば、家のことをなにもしなくてよい一週間があったとして、それで家事が滞るのなら、家事をこなしながら過ごす七日間のほうがストレスフリーなのだ。

僕はなぜ家事を好むのか。幾度か考えたことがあるけれど、その間に掃除や洗濯がしたくなり内省が中断してしまうので今までよくわからずにいた。

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『橙は、半透明に二度寝する』あと5分だけ

少女たちは、少しささくれた線で描かれる。明暗のきわ立つその絵は、一見して版画のような堅い印象を受ける。しかし同時に、どこかやわらかな感触もともなうふしぎな紙面で、物語は進行していく。

幼なじみの首にカミソリの刃を入れる少女。ドキドキしすぎると爆死するという病に侵されながら、好きな男子に告白しようとする少女。度々訪れるエイリアンから町を守る少女。日々巨大化を続ける友人を持ちながら、「私の日常は普通すぎる」と非日常を求める少女。

そんな彼女たちと、彼女たちの暮らすちょっとふしぎな町を描いた短編集『橙は、半透明に二度寝する』。

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『幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい』のはなぜなのか

結婚式の前々日に、彼女は自ら命を断った――。その理由を探しもとめる婚約者を描いた表題作「幸福はアイスクリームみたいに溶けやすい」ほか、12の短編が収録された一冊。ほとんど用いられない擬音や、繊細な線も事由となって、この作品では、それぞれの日常が静かに静かに綴られている。

見かけだけの話ではなく、各話で描かれているのは実際に起こりうることばかりだし、結末も、たとえば意外な落ちがあるわけでもなく、大仰な教訓が示されているわけでもない。その先も静かな日常が続いていくことを予感させ、各話は幕を閉じていく。

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『運命の女の子』の手をとって

赤いぼうしと青いオーバーオールで身を飾る髭の男をあやつりながら、ときおり現れる星を手に入れ、なにものをも寄せつけないキラキラ瞬く体となって、けれど刹那で終わってしまうそのひとときが、ずっと続けばいいのにと、いつもそう思っていた。

さて、ヤマシタトモコ『運命の女の子』。収録されている3つの長編、そのひとつめの「無敵」の話。

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